北九州市、小倉名物仮装太鼓祭りの由来、神話、昔話、伝説、逸話【ムスット神】

北九州市、小倉名物仮装太鼓祭りの由来、神話、昔話、伝説、逸話
題名【ムスット神】(転載使用OK、原文のまま)

ここから↓



昔々の話。



小倉の町は三日三晩続く大嵐に見舞われていた。

荒れる空には【ムスット神】がその青暗い姿を現し浮かんでいる。

いつもムスッとしている【ムスット神】。その顔は、眉はぐぐんと吊り上がり、額には三本の深いしわが刻まれていた。

ムスット神は同じ言葉を繰り返し叫んでいる。

「ムスムスムスムス、天罰じゃ天罰じゃ天罰じゃ。」

雷が鳴り響く。

(ゴロゴロゴロゴロ、ドッシャンシャンシャン)



地上から、町の若者【アッカン】が訊ねた。

「ムスット神よ、何故そう荒れ狂うのじゃ、我らがなにをした。」

ムスット神は答える。

「ワシがつくってやった戒めの一つ【遊びの戒め】を子供たちが勝手に変えたのじゃ。自分たちで新しい戒めをつくり、遊んだのじゃ。いいか、よく聞け。ワシの戒めは、お前たちを良き暮らしに導く、尊い戒めじゃ。町民ごときが浅はかな知恵で勝手に変えてはならぬ!。少しでも逆らえば天罰じゃ天罰じゃ天罰じゃ。

ムスット神の声は雷と共に町中に響き割った。

(ゴロゴロゴロゴロ、ドッシャンシャンシャン)

町民は皆おびえて下を向いている。

長い間そう暮らしてきた。



嵐がやっとおさまったその朝、アッカンが広場にやってきた。

アッカンはいつも着ているハッピを腰に巻き、顔には滑稽な化粧をほどこしている。

そしてその姿で太鼓を打ち鳴らし始めた。

(トントコトントコ、トットコトン)

ずっと同じ拍子(リズム)で太鼓を打ち鳴らし、それに合わせて歌う。

「ほーれほれほれ、ほーれほれ。ムスット神よ、笑えよ、踊れよ。」

それは夕方まで続いた。



いつの間にか噂を聞きつけた町民たちが集まってきた。

町民たちは言う、

「またあいつが、おかしなことをやっているぞ」

「ムスット神の天罰がくるぞ」

「今年の凶作もあいつのせいだ。みんな石を拾ってぶつけてやれ」

町民たちの投げる石は、容赦なくアッカンの体中に当たる。

顔にもあたり、血がたらりと流れ、化粧をほどこしたそれをより滑稽にした。

それでもアッカンは、それを無視するかのように平然と太鼓を打ち鳴らし続ける。



そんな時、ムスット神が現れた。そして低く地響きのような声でこう言った。

「アッカンよ、それをやめい、やめなければこれまで以上の恐ろしい天罰を下すぞ」

アッカンは演奏をやめない。

どころかその拍子を段々を速めていった。

(トントコトントコ、トットコトン)

(トントコトントコ、トットコトン)

どんどん速く、どんどん強く。

(トントコトントコ、トットコトン)

(トントコトントコ、トットコトン)

するとムスット神の体が揺れ始めた。

それを見た町民が叫ぶ。

「おい皆の衆、俺たちも一緒に」

町民たちは一度うなづき、走って家へ帰った。



すぐに町人たちは広場に戻ってきた。それぞれは太鼓や笛などの鳴り物、タライや木桶を手にしている。

そしてそれをアッカンの拍子に合わせて鳴らし始めた。

(トントコトントコ、トットコトン)

(トントコトントコ、トットコトン)

ムスット神の体が大きく揺れる。

(トントコトントコ、トットコトン)

どんどん速く、どんどん強く、そして大きく。

日が沈み辺りが暗くなり、太鼓の拍子がこれ以上ない速さになったそのとき、ムスット神が黄金色に輝いた。

その閃光に皆、一瞬目がくらんだ。



皆が目を開けた時、目の前のムスット神は違う姿になっていた。

あの吊り上がった眉毛は眉尻から随分と垂れ下がり、深く刻まれた額のシワは消え、口元はニッコリとほほ笑んでいる。

黄金色の神はピョンピョンと飛び跳ね始めた。そうしながら踊り、歌う。

「ガッハッハッハのガッハッハッハ。ニッコリ神が笑うぞ、踊るぞ。」

アッカン、町民たちもまた、太鼓を打ち鳴らし、踊り、歌う。

(トントコトントコ、トットコトン)

「ガッハッハッハのガッハッハッハ。」

黄金色の神が笑う度、小判が町中に降り注いだ。



その日以来、ムスット神は消え、ニッコリ神となり、町は笑顔に包まれた。

子供たちは新たな遊びをつくりだし楽しみ、大人たちは、農作業、商いに、次々と工夫を加えて町は発展していき文化が栄えた。

町民たちはその豊かな日々を祝い、一年一度、面白おかしく仮装をして太鼓を鳴らし踊る。



(了)

人気の投稿